最高裁判所第一小法廷 平成11年(受)1067号 判決 2000年3月09日
上告人
岩瀬観光開発株式会社
右代表者代表取締役
林富雄
右訴訟代理人弁護士
原口健
久保田理子
土井智雄
設楽公晴
株式会社ゲインズ破産管財人
被上告人
宮田眞
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人原口健、同久保田理子、同土井智雄、同設楽公晴の上告受理申立て理由について
一 本件は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産したため、その破産管財人が破産法五九条一項によりゴルフクラブの会員契約を解除し、ゴルフ場経営会社に対し、預託金の返還を請求している訴訟である。
原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、預託金会員制ゴルフクラブである「ウィルソンゴルフクラブジャパン」(現在は、「いわせロイヤルゴルフ倶楽部」と改称している。以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営する会社である。
2 本件ゴルフクラブに入会を希望する法人は、一二〇〇万円の法人正会員資格保証金を上告人に支払うことにより、本件ゴルフクラブの会員資格を取得する。
3 本件ゴルフクラブへの入会に伴って発生する上告人と会員との間の権利義務関係は、次のとおりである。
本件ゴルフクラブの会員は、会員としてゴルフ場施設を優先的に低料金で利用し、入会に際して預託した資格保証金の返還を規約所定の据置期間経過後に退会とともに請求する権利を有し、年会費納入等の義務を負う。
4 株式会社ゲインズは、昭和六三年一二月ころ、上告人に対し、法人正会員資格保証金一二〇〇万円を払い込み、本件ゴルフクラブの会員になった(以下「本件会員契約」という。)。
5 株式会社ゲインズは、平成一〇年三月九日に破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選任された。
6 被上告人は、平成一〇年三月二六日、上告人に対し、破産法五九条一項により本件会員契約を解除する旨の意思表示をした。
二 原審は、次のように判断して、被上告人の右資格保証金の返還請求を認容すべきものとした。
本件会員契約は、上告人が会員にゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と会員が資格保証金を預託してその据置期間中上告人に運用を許し年会費を納入する等の義務とが対価的関係にある双務契約であり、会員が資格保証金の預託をして会員資格を取得した後においては、上告人が会員にゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と会員の年会費納入等の義務とが対価的関係にある一種の継続的契約関係である。ゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と年会費等の支払義務は、対価的に本件会員契約が終了するまで継続するものであって、破産宣告当時、共に未履行であることは明らかである。したがって、被上告人は、破産法五九条一項により本件会員契約を解除し、資格保証金の返還を求めることができる。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 前記事実関係によれば、上告人と本件ゴルフクラブの会員との間の契約関係は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員契約であるということができる。右会員契約は、主として預託金の支払とゴルフ場施設を利用させる義務とが対価性を有する双務契約であり、その会員が破産した場合、会員に年会費の支払義務があるゴルフクラブにおいては、ゴルフ場経営会社の債務(ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、これを会員に利用させる義務)と会員の債務(年会費支払義務)が破産法五九条一項にいう双方の未履行債務になるということができる。
しかしながら、破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。この場合において、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法六〇条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである(最高裁平成八年(オ)第二二二四号同一二年二月二九日第三小法廷判決・民集五四巻二号登載予定参照)。
2 そこで、被上告人が本件会員契約を解除することにより上告人に著しく不公平な状況が生じるかどうかについて検討する。
預託金会員制ゴルフクラブの諸施設の整備は、通常は多数の会員から利払いの負担のない資金を調達することによって可能になるという経済的な実態があることは公知の事実であり、右実態にかんがみると、右会員契約関係においては、会員となろうとする者が預託金を払い込むことにより会員資格を取得し、ゴルフ場施設利用権を有するに至ることがその基本的な部分を構成するものであるということができる(最高裁平成三年(オ)第七七一号同七年九月五日第三小法廷判決・民集四九巻八号二七三三頁参照)。
預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合にその破産管財人による解除が認められることになると、ゴルフ場経営会社は、他の会員に対してゴルフ場施設を利用させなければならない状況には何ら変化がなく、また、特に本件のようにゴルフ会員権の市場での売却が著しく困難なゴルフクラブにおいては(この点は記録上明らかである。)、多数の会員のうちの一人が会員資格を失うことによりゴルフ場経営会社に利益が発生することは想定し難いにもかかわらず、本来一定期間(本件では正式開場日の翌日から起算して二〇年間であり、その期間満了の日が平成二五年六月一九日であることは記録上明らかである。)を経過した後に返還することで足りたはずであった預託金全額の即時返還を強いられることになる。その一方で、破産財団の側ではゴルフ場施設利用権を失うだけであり、殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのであって、甚だ均衡を失しているといわざるを得ない。ゴルフ場経営会社が、会員契約の解除によって生じる右のような著しい不利益を損害賠償請求権として構成し、これを破産法六〇条により破産債権として行使することで回復することは、通常は困難である。
また、会員契約の成立により、会員は所定の年会費の支払義務を負うこともあるが、その場合でも一般に年会費の額は預託金の額に比べると極めて少額であり、ゴルフクラブによっては会員に年会費の支払義務がない例があることも公知の事実である。そうすると、本件会員契約のように会員に年会費の支払義務がある場合においても、その義務は、会員契約の本質的・中核的なものではなく、付随的なものにすぎないというべきである。
そして、破産財団が有するゴルフ会員権に預託金の額を超える価値があるような場合には、破産管財人は当該ゴルフ会員権を市場で売却することにより、解除権を行使するよりも有利な額で換価できることになるのであるが、市場における当該ゴルフ会員権の価値が預託金の額より低額である場合には、破産法五九条一項による解除権を行使することによって、価値の低いゴルフ会員権を失う対価として預託金全額の即時返還を請求し得るとすることは、著しく不当な事態を肯定することになるといわざるを得ない。
一方、破産管財人としては破産財団の減少を防ぐために年会費の支払を免れる必要があるが、そのためには本件会員契約を解除しなくても、会則の定めに従って退会の手続を執れば足りるのである。
これらにかんがみると、被上告人が本件会員契約を解除するときは、これにより上告人に著しく不公平な状況が生じるということができるから、被上告人は、破産法五九条一項により本件会員契約を解除することができないというべきである。
四 以上によれば、被上告人による本件会員契約の解除を認めた原審の判断には、破産法五九条一項の解釈適用及び本件預託金会員制ゴルフクラブにおける会員契約の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、被上告人の請求は理由がないから、第一審判決を取り消した上、被上告人の請求を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)
上告代理人原口健、同久保田理子、同土井智雄、同股楽公晴の上告受理申立て理由
第一 はじめに
原判決は、本訴の主たる争点であるゴルフ会員契約における破産法第五九条一項の適用の可否につき、同契約は双方未履行の双務契約に当たり、また破産にかかるゴルフ会員権が他の会員権とは別異の取扱を受けたとしても、破産法の予定するところであるから問題はないなどとして、右法条の適用を認め、破産管財人による解除とそれにともなう預託金返還請求を認容する。
しかしながら、以下に述べるとおり、破産法第五九条一項の解釈として、同条項はゴルフ会員契約には適用がないと考えるべきであり、原判決は法令の解釈につき重要な誤りを犯しているといわざるを得ない。
第二 検討
一 ゴルフ会員契約の分析
1 まず、原判決は、ゴルフ会員契約の双務的性格を認めるべく、年会費等の支払義務と施設利用権は本質的に対価関係に立つ旨いとも短絡的に断定する。
しかしながら、本件ゴルフ会員権の預託金額が金一二〇〇万円であるのに比し、年会費が高々金三万一五〇〇円に過ぎないことからも明らかなとおり、預託金は会員に優先的施設利用権を設定する前提として、相当高額であるのに対し、年会費は権利設定後の維持費的な側面を濃厚に帯有し、月々数千円程度の些少な金額であるのが一般である。預託金の納付がなされない限り、優先的施設利用権の付与はあり得ないが、その納付後、年会費支払が滞ることによって、利用権が直ちに消滅するものでもない。したがって、経済的・実質的に見る限り、ゴルツ会員契約における会員にとっての中心的な義務・負担は専ら預託金の納付義務に尽きるといえ、それに比べれば年会費支払義務は無視し得る程度の負担であって付随的義務に過ぎない。
2 これを資金使途の側面から検討すると、預託金制ゴルフクラブは一般に会員の納付する預託金をもって土地購入費及び開発・工事費の支払に充てることを常としており、その意味で預託金納付は施設の優先的利用の前提として正に欠くべからざる性格を有するものであるが、他方、年会費は完成後のゴルフ場の維持費乃至事務手数料の一部に当てられるのが通常であり、施設の優先的利用に還元されるべき性質を有していないといえる。
3 これを卑近な例に照らして考えると、たとえば、分譲マンションの管理費がゴルフクラブの年会費とほぼ同様の位置付けを与えられるといえよう。この場合、分譲マンションの購入代金に該当するのが、ゴルフ会員契約における入会金・預託金であり、購入後の管理費に該当するのが、年会費である。
分譲マンションの購入が、不動産の売買契約であることは指摘するまでもないが、ゴルフ会員権も、譲渡性があり交換価値の認められる資産としての性質を色濃く有し、したがって、入会契約はゴルフ会員権という資産の売買契約と構成することも十分に可能である。この場合において、売買の対象は一定の流通性を与えられたゴルフ場の優先的利用権及び据置期間満了後の預託金返還請求権を権利の中核とするゴルフ会員権そのものであり、その対価は入会金の支払いにほかならない。また、当然の前提として、購入者は購入契約に際して、事業者に対し預託金を寄託することが必要となる。
ところで、分譲マンションの場合、購入代金の支払により当該目的物に対する所有権能は完全に買主に帰するところとなるが、対価の支払いを終え売買自体が完結した後も、マンションという一種の集団的居住関係から必然的に発生する管理業務に関するコストとして管理費の徴収が必要となるのである。目的物に対する所有権が移転し尽くしている以上、管理費自体が購入した分譲マンション利用の対価としての性格を帯有していないことは自明である。
ゴルフ会員契約の場合にも、前述のとおり、優先的施設利用権は、まずもって預託金の納付のみによって設定されることとなる。したがって、会員にとって経済的に最大の負担となるところの入会金及び預託金納付に施設利用の対価としての性格が認められることは当然である。ところが、年会費の支払は、すでに権利設定がなされた後、諸施設の維持や多数会員の集団的管理のコストの一部を賄うべく預託金制ゴルフクラブが長年の経営の過程で技巧的に作出し(それが類型にまで高められ)た金銭徴収システムの一つであり、明らかに非本質的・付随的義務に過ぎない。優先的施設利用権は、入会(購入)契約自体によりすでに完全に発生している以上、その後の年会費支払に施設利用の対価としての性格を見出すことはできないというべきである。
4 この点、原判決は、「年会費等の支払義務を一定期間以上怠ると、除名処分乃至一定期間の会員資格の停止処分が規定されている」ことをもって施設利用権との間に対価関係を認めるひとつの根拠とするようであるが、これとても、右の金銭徴収システムに強制力・実現力を与えるべく制裁条項として技術的に立案・導入されたものであるから、権利義務の本質から導かれたものとはいえず、正当な根拠足り得ないことが明らかである。
この点に関連して、双務契約には本来同時履行の抗弁権が認められるが、優先的施設利用権は、入会金及び預託金の納付によって発生するものであり、前述のとおり、年会費支払が滞ることによって、利用権が直ちに消滅するものでもないから、その間に同時履行関係を見出すこともできない。このことは、優先的施設利用権と年会費等の支払義務が双務関係にないことの証左のひとつである。
5 結局、原判決は年会費支払義務の発生、導入経緯に関する分析を怠り、その実際の使途や預託金納付義務との間の明らかな経済的不均衡をも無視して、会員の最大の権利たる施設利用権との間に対価関係を認めている点において明白な誤謬を犯している。
したがって、右「対価関係」の存在を根拠にゴルフ会員契約の双務性を認め、破産法第五九条一項の適用を肯定する原判決には、明らかに同条項にいう「双務契約」の解釈を誤っているというべきである。
二 利益衡量
1 また、原判決は、会員の破産という事由をもって破産法第五九条一項の適用を認めることは、預託金制ゴルフクラブの団体的集団的拘束に対する重大な背理となり、ひいてはゴルフクラブの経営を窮地に陥れる危険性を有するとの主張に対し、預託金制度による経営は申立人自身が選択したものである(から結論はやむを得ない、あるいはこれを甘受すべきである)との論法を展開するが、極めて粗雑な暴論であり、申立人の指摘に何ら答えていないといわざるを得ない。
すなわち、申立人は右主張の前提として、他のゴルフ会員と、破産した会員もしくは破産会員の債権者(端的には破産財団)との利益衡量がなされるべきである旨述べ、従前集団の中に平等に埋没していた破産者もしくは破産債権者の権利もしくは経済的地位を、破産宣告という一事のみをもって格段に優遇すべき理由は全く見あたらないこと、破産管財制度は、破産者の資産の散逸を防ぎ、平等弁済を目的とするものであっても、破産債権者に現有資産を上回る望外の利をもたらすものではないことを指摘した。
ところが、原判決はこのような利益衡量的見地及び破産制度の公平の理念に対する検討を一切無視している。
2 そもそも、預託金制ゴルフクラブは多数の会員が同一のゴルフ場施設を利用し、クラブを形成している関係にあって、すべての会員は同一の会則を承認して、団体の維持・発展という目的によって拘束されている。
そのような集団的法律関係に基づき約款的性格を有する会則において、通常退会事由とされている死亡、除名その他の事由に該当しない限り、会員権の譲渡は別として、会員側から会員契約を解除することは、民法上の法定解除事由がある場合以外はできないこととなっており、なおかつ右退会事由の生じた場合といえども、預託金返還請求権については、据置期間の制限に当然服することとされている。
3 ところで、たとえば会員の死亡は不可避のものであり、会員とゴルフクラブのいずれにも責を帰せしめるべきものでもない。そこで、これを会員資格喪失事由の一と定め、なおかつ集団的法律関係に平等に服せしめるべく据置期間満了後に相続人らに預託金の返還を行うことは合理的であり正当なものと認めることができる。
他方、会員の破産は、相対的には不可避な事情ではなく、またゴルフクラブが一切無答責である(不利益を課せられる理由が一切ない)のに対し、会員の側には明らかな原因行為が存するものである。ところが、ゴルフ会員契約に破産法第五九条の適用を認めるとすると、このような特殊かつ極私的事情により、ゴルフクラブは契約自由の原則の重大な例外として、一切無答責であるにもかかわらず、据置き期間満了のはるか以前に預託金全額の返還を強要される結果となる。これを他の会員から見ると、通常であれば一律に預託金請求を据え置かれるのに対し、破産という一事により破産会員は即時解除による預託金返還請求が可能となることとなって、例外的に極めて有利な取扱いがなされ、逆に他の会員は間接的な不利益を被ることとなる。しかも、ゴルフクラブにしても、他の会員にしても、このような不利益を甘受すべき合理的理由を見出しがたい。
このような結論は、ゴルフ会員契約の集団的、団体的性格に対する重大な背理となるものであり、当然に預託金制ゴルフクラブが集団的性格をもって規律、維持しようとする会員契約当事者間の公平、平等を著しく害するといわざるを得ない。
3 右のとおり、ゴルフ会員契約に破産法第五九条の適用を認めることは、預託金制ゴルフ場の趣旨、制度に対する社会一般の信頼並びに右趣旨、制度によって守られるゴルフ場の経営基盤もしくはゴルフ会員の経済的利益をも揺るがし脅かすこととなる。
しかるに、破産者もしくは破産管財人に対し、このような集団規制に対する唯一の例外を認めるべき必要性、合理的理由は全く存在しないといわざるを得ない。
けだし、他のゴルフ会員と、破産した会員もしくは破産会員の債権者(端的には破産財団)との利益衡量上、破産者もしくは破産債権者の権利もしくは経済的地位を、破産宣告という一事のみをもって一方的に優遇すべき理由は全く見あたらないからである。すなわち、破産管財制度は、公平の理念に基づき破産者の現有資産の散逸を防ぎ、現有資産の範囲で平等弁済を目的とするものであり、破産債権者に望外の利をもたらすことを意図するものではないから、他の会員の犠牲においてひとり現有資産の範囲を明らかに逸脱する有利な預託金の返還を受けることを制度が認めているとは到底言い難い。預託金制ゴルフ場の根本をなす集団的、団体的性格を貫き破産会員にも平等な取扱(破産法第五九条の適用を認めず、会員権の譲渡処分をのみ許容する)をすることは、破産制度の趣旨に沿いこそすれ、これに反するものとはならないのである。
4 原判決は、他の会員と異なる取り扱いがなされるのは、破産手続の早期進行を図るべく破産法がもともと予定するところであるという。しかしながら、早期進行のためには、ことさらに解除権を認めなくとも、会員権を時価によって譲渡・処分する方法が存在するはずである。申立人は原審においてこの点を指摘し、公平を理念とする破産法が、ゴルフ会員権の時価処分と解除による預託金返還の有利選択を許すことの不当性、不平等性に言及した。
ところが、原判決は、解除権を認めなくても容易に達成し得る「早期進行の要請」を言い立てるばかりで、結果的に破産財団が現有資産を上回る望外の利益を収め得ること、他のゴルフ会員に比し破産財団を優遇し得る根拠については、一切語ろうとしない。預託金制度を選択したのだからこのような結論を甘受すべきであるとの口吻は、緻密な利益衡量論に目を塞ぐものであり、自ら法的解決を放棄したものというほかない。
5 原判決は、破産法第五九条一項の適用の可否を論ずるに当たり、右のような利益衡量を全く実施しておらず、結果として同条項の解釈を誤っているというべきである。
第三 まとめ
右の次第で、原判決には、破産法第五九条一項の解釈につき重大な誤りが認められるので、上告審として事件を受理するよう求めるものである。